2016年11月号

インプラントのメリットとデメリット

■金属の人工歯根を埋め込み義歯を装着
抜けた歯を補う入れ歯治療の中で、機能面でも審美面でも特に優れているのが、「インプラント」です。
インプラントは人工歯根という意味で、その名称からもわかるように、あごの骨の中にネジのような形の金属を埋め込み、義歯を安定させることで、自分の歯と同等のかむ力やかみ心地を実現する優れた治療法です。
インプラントが成功すれば、定期的なメンテナンスにより、長期に使える第2の歯を手に入れることができるのです。
インプラントの歴史は比較的新しく、日本で行われはじめたのは20年ほど前からです。しかし、その優れた特徴から、今やインプラントはすでに入れ歯治療の主流になっています。
ただし、インプラントはすべての人に適用できるわけではなく、いくつかの条件をクリアする必要があります。それを解決できるのであれば、まっ先にインプラントによる治療を考えるべきでしょう。
インプラントの治療は、次のような手順で行われます。
歯ぐきに注射で局部麻酔をしたあと、歯肉をメスで切開し、インプランターというドリルを用いて、あごの骨に小さな穴をあけます。そこにチタンでできたフィクスチャーという人工歯根を埋め込み、その上にアバットメント(連結部)をつけ、さらにその上に金属やセラミック(焼き物)の義歯を装着するのです。
手術には1~2時間かかりますが、実際のインプラントの埋め込みは15分ほどですみ、気になる痛みも手術中は麻酔をするのでほとんどありません。

■2回法を選ぶのが安全で確実
インプラントによる治療法には、1回法と2回法の絵種類があります。1回法は、人工歯根の埋込みから義歯の装着まですべての治療を1回で行う方法で、2回法は最初の治療で人工歯根を埋め込んで歯ぐきを縫合し、人工歯根が骨と完全に結合するのを待って義歯を装着する方法です。
この場合には、義歯の装着は早くても2ヶ月以上先になります。その間、患部の清潔を維持するために、定期的に通院しなければなりません。
最近では、時間を惜しむ人が多いこともあって、1回法を選択するケースが増えていますが、1回法では骨と人工歯根が完全に結合するまでに感染が起こるリスク(危険)が高くなります。感染が起こってしまった場合は、再び治療をやり直さなくてはなりません。
1回法は、治療期間が短く手術回数が少ないことは大きな魅力ですが、治療の確実性という面では2回法より劣ってしまいます。そのため、1回法でインプラントを行う場合は、より慎重に適応を見極めることが必要です。
なお、1回法にしても2回法にしても、手術後最初の1年間は3~4ヶ月に一回、2年目以降は年に1回程度のメンテンナンス(歯のクリーニングや診察)が必要です。

■かむ力は健康な歯の80~90%
さて、前に述べたように、インプラントは入れ歯の治療法の中で最も優れた方法と考えられています。
具体的な利点としては、まずその機能性の高さがあげられます。ほかの方法に比べると違和感が少なく、ものをかむ力もかなりの程度まで取り戻せます。
一般に、あごの上側の歯にインプラントを入れる場合は本来の歯の80%、下側の歯は90%まで、かむ力が復元されるといわれています。これは、前の記述で述べた5つの入れ歯の中で群を抜く数値です。
また、インプラントは審美面でも優れた特徴を備えています。義歯を作る材料は金属や白いセラミックなどまちまちですが、いずれの場合も本来の歯と比べ違和感はほとんどありません。さらに、ブリッジとは違って、治療しない歯を削る必要がないことも、インプラントの利点の一つです。
しかし、残念ながら、インプラントにも難点があります。
その一つは、すべての人のすべての歯に適用できるものではないということです。具体的にいうと、歯周病などが原因で歯の奥のあごの骨が薄い場合には適用できません。また、膠原病(結合組織に炎症や変性を起こす病気)や白血病など重度の全身疾患を患っている場合も、この治療は行えません(インプラントが不適な人は下記の表を参照)。
骨が薄い場合にはあらかじめ、ほかの部分の骨を移植したり、人工骨を作って埋め込んだりする方法もありますが、その場合には治療期間が長引くうえに治療費も100万円を超える場合があります。
人工骨を作らない場合でも、インプラントは健康保険が利かず治療費が高額になるという難点もあります。治療費は、歯科医院によってまちまちですが、ごく大ざっぱにいって、人工歯根の埋め込みで25万円前後、人工義歯(5万~20万円)の装着も含めると1本あたり30万円以上かかります。
こうした難点をふまえても、現在の入れ歯の治療法の中で、抜けた歯を補う治療でインプラントが最も抜きん出た治療法であることは間違いありません。歯の状態や費用面などの条件がクリアされるのであれば、インプラントこそ入れ歯の第一選択肢になることは間違いないでしょう。

◆インプラントを受けられない恐れがある人◆

  • 歯の奥の顎の骨が薄い人
  • かみ合わせが極端にいびつな人
  • 歯が抜けてそのままにしてた期間が長い人(骨が薄くなり、歯並びが悪くなっているため)
  • 膠原病や白血病など、重度の全身疾患を患っている人
  • コントロールされていない糖尿病や高血圧などの病気のある人
  • 治療後に定期的なメンテナンスに通えない人
  • 喫煙者(血流が悪く歯周病になりやすい)
  • 18歳以下の若い人(骨の成長が終わっていないため)