2017年8月号

唾液は健康状態を表すバロメーター

口の中や全身を守る働きがいっぱい
1日に分泌される唾液の量をご存じですか?なんと1~1.5L。大きなペットボトル1本分です。「それだけ唾液は働き者。もし口がカラカラに乾いてしまったら、楽しいはずの食事もおしゃべりも、難行苦行になります」と語るのは、日本大学歯学部教授で摂食機能療法学講座を担当する植田耕一郎先生。食事の時は唾液の働きによって口の中に入った食べ物を湿らせて飲み込みやすくしたり、味のもととなる物質を溶かして舌に味覚を感知させやすくしたりします。また、唾液中のa-アミラーゼという酵素には、糖質を分解して消化を促進する作用が。口の中に残った食べカスや歯垢を洗い流したり、口臭を予防したりするのも、唾液の重要な役割です。「何より大きいのは虫歯と歯周病を防ぐ作用でしょう。唾液中の成分が、虫歯菌の出す酸を中和しつつ、酸で溶けた歯のエナメル質を修復。同時に様々な抗菌物質が、虫歯菌や歯周病菌など口内細菌の活動・繁殖を抑制します」(上田先生。以下同)歯が失われるおもな原因は虫歯もしくは歯周病です。なかでも後者の罹患者率は高く、成人のおよそ8割が歯周病と歯周病予備軍といわれます。「口の中が唾液でたっぷり潤っていれば、歯周病菌が繁殖するのを抑え、歯肉の炎症や歯のグラつきを防止できます。最近の研究で、歯周病菌の毒素が歯肉の“歯周ポケット”から血管に入り込み、動脈硬化や糖尿病を悪化させる可能性が指摘されるようになりました。こうした点からも、唾液は口腔衛生だけでなく、生活習慣病の予防に貢献し健康寿命を延ばしてくれるといえるでしょう」

唾液を増やすポイントは楽しく食べて、笑うこと
ところが近年、唾液が減少するドライマウスと味覚障害が増えているのだそうです。「原因となる疾患にはシェーグレン症候群がありますが、大半は薬の長期間服用による副作用か、持続的なストレスによる自律神経の乱れが原因。中高年に多いのは、高血圧などの持病のため複数の薬を服用したり、更年期のイライラでストレスに過敏になったりするためでしょう」唾液は自律神経に支配され、活動モードの交感神経優位だと少量の“ネバネバ唾液”が、休息モードの副交感神経優位だとたっぷりの“サラサラ唾液”が分泌されます。ストレスにさらされたり興奮状態だったりすると、口が乾いてネバつくのがわかるはず。緊張から、無意識のうちに口呼吸になることもドライマウス悪化の要因に。食事も美味しく感じられず、喉をうまく通りません。特に高齢者では、唾液不足が食欲不振と嚥下機能の低下に直結。気力・体力が衰えますし、食べ物や口内細菌が間違って気管に入り、「誤嚥性肺炎」を起こす危険性も。「反対に口の中がもっとも潤うのは、リラックスして食事を楽しんでいる時です。美味しく食べてサラサラ唾液を増やし、味覚と咀嚼力、嚥下力を維持して、消化吸収を高めましょう。“唾液力”こそ、食べる意欲と生活の質を守る原動力です」口の乾きが気になるならガムを噛んだり飴をなめるのも◎。糖質の中でも虫歯菌に分解されない「キシリトール」配合のものがおすすめです。さらに唾液を増やす秘訣は、表情豊かに生活することと、積極的に会話を交わすこと、表情筋が鍛えられると唾液腺も活性化します。「女性が長寿なのは、友人と食卓を囲み、賑やかにおしゃべりする機会が多いから。人生を前向きに楽しみ、大いに口を潤してください」