2013年8月号
噛むことの大切さ
子供の頃、食事の際に親から「口に食べ物を入れたら30回噛みなさい」と言われたこと、ありませんか?
私たちは特に意識することなく、毎日歯で食べ物を噛んでいます。噛むことはもちろん、食べ物を細かく砕くための行為なのですが、単にそれだけに留まらず「噛むこと自体が体の健康に豊かな食文化のために役立っている」のです。
認知症にならないために、よく噛む
ものを食べる際によく噛むことは、食べ物を味わうためにも、胃から腸にかけての消化器系の負担を少なくするためにも大切なことです。日常生活においては、噛むことに慣れてしまい、噛むことは当たり前のことと誰もが思っています。しかし何かの理由で歯がなくなると、噛めなくなってしまいその結果、食べ物は美味しくなくなり胃腸への負担も大きくなってきます。また血液の循環も悪くなり、脳の動きが鈍くなります。
例としてよくあげられるものに「認知症」があります。認知症に罹っている人をみますと、女性よりも男性に多く、特徴として「総入れ歯」「無趣味」な人が約半数といったデータがあります。
これは男性は女性と比較して社交性が乏しいためで、特に定年退職などで会社を辞めると近所との付き合いがなくなり、孤独になることが多いとする考え方もあります。さらに、「総入れ歯」が物を噛むためによく機能してくれないと、食べ物を充分に咀嚼することができません。そのため、血液循環が悪くなり脳への刺激が働かなくなります。また栄養も充分に摂れないため活力がつかず、精神的にも無気力になりがちです。
そして社交性とも関連しますが、趣味がないと何もすることがなく、日中テレビなどを受動的に見ていることになります。すると頭を動かせないだけでなく、体の運動もしないので足腰が萎えてきます。
プロポーションのために噛む
グルメなアメリカの時計屋さんのフレッチャーさんは、たいへん太っていた人ですが、毎日よく噛んで食べることにより体重が減少し、体調が大変良くなったそうです。現在、痩せるためのエステやフィットネスクラブに通うことが盛んに行われていますが、わざわざ痩身法などをやらなくて、充分に時間をかけて噛むことによってダイエットもできるということです。
日本も世界の中では豊かな国ですので、早食いも芸のうちなどといわずに、ゆっくりよく噛んで食生活を楽しみたいものです。
噛んで食文化を享受する
このように、物をよく噛まないということは、単に食べ物の味がわからない、おいしく食べられないというだけでなく、全身的に様々な病気の誘引となります。逆に言えば、歯があってよく噛めるということは、健康で文化的な生活が送れるということにもなるでしょう。
ブロ野球・相撲・プロレスなどの選手が、瞬間的に力を出すために歯をくいしばったときの力は、最大90キログラムもあると言われています。しかしこれは上下の歯があってのことで、歯がない場合は半分以下の咬合力に低下してしまいます。
これからの高齢化社会に向けて、単に生きているのではなく食文化を享受し、よく噛んで食べ物を美味しく食べることが大切です(Quality of Life)。