2017年6月号
マウスピース 根気と努力
ここ10年ほどで広まっている新たな歯の矯正がある。取り外し可能なマウスピース型装置による治療だ。ワイヤを歯に取り付ける方法と違い、マウスピースは透明で目立たない。食事や歯磨きの時は取り外せるのが大きな利点だ。最も普及している方法では、歯型を取り、最終的な治療後の歯並びをコンピューターで予測してメーカーが作製した数十個のマウスピースを使う。2週間ごとに付けるマウスピースを取り換えていくことで、徐々に歯を動かす。この治療を日本に導入したのは、東京都大田区の昭和大学歯科病院・歯科矯正学教授の槙宏太郎さん(58)だ。槙さんは治療中の見た目の美しさや、痛みの軽減につながる治療を求め、2000年から導入した。大手メーカーによると、世界で340万人以上がこの治療を受けている。だが、思うような歯並びにならないなどのトラブルも増えていると言われる。東京都内の30歳代女性は、テレビ番組でこの治療を知って「目立たないから」と治療を始めた。推奨される1日20時間のマウスピース装着時間をできる限り守っているつもりだが、「外す時間が長い日があると歯が元に戻って、なかなかはまらなくなる」と話す。また、通常のワイヤ式の矯正に比べ、使える人が限られるのも大きな弱点だ。ワイヤ式の矯正は、引っ込んだ歯を引っ張り出したり、歯の向きを回転させたりしやすい。マウスピースは歯をつかむ力が弱く、これらの治療が苦手だ。昭和大学歯科病院では、奥歯はワイヤ式、前歯は目立たないマウスピースなどと治療を組み合わせたり、一部の歯を大きく動かす際には、歯茎に打ち込んだ金属製の突起(インプラント)を支柱にして引っ張ったり、と工夫を凝らす。この治療の第一人者の槙さんでさえ、試行錯誤を繰り返し、時には患者に相談して通常の治療に切り替えることもあったという。「マウスピース矯正は歯並びの乱れが比較的軽い人に適している。だからといって簡単な治療というわけではない」と指摘。「マウスピースでどんな歯並びでも治る、などと言う歯科医は避けたほうがいい。矯正を専門的に学んだ歯科医の治療を受けてほしい」と話す。取り外しできる分、通常の矯正以上に、患者の根気と努力が必要になることを理解して治療を受けたい。
マウスピース型矯正の特徴
長所
- 必要な時に外せるため、食事や歯磨きがしやすい
- 目立たず、話しやすい
- 痛みがやや少ないとされる
短所
- 引っ込んだ歯を引っ張り出す、大きく回転させるのが苦手
- 治療期間が長い
- 費用がやや高い