2017年10月号
歯を失うだけでは済まない歯周病
40代以上の日本人の大半がかかっているといわれる歯周病は、進行すると歯を支える骨が溶け、歯を失う原因になる。前出・小川原医師がこう説明する。「正常な状態の歯肉はピンク色で引き締まっていますが(左のイラスト①)、歯垢がたまっていくと、歯茎に炎症が生じて暗赤色に腫れます(②)。歯磨きの時や硬いものを食べた時に出血しやすい状態ですね。炎症が進行すると歯と骨をつなぐ歯根膜が溶け、隙間(歯周ポケット)ができます(③)。歯を支えている骨が溶け始め、悪化すると歯茎が下がって、歯がグラグラ動きます。歯茎から膿が出て口臭も強くなりますね。重症になると、骨がほとんど溶けてしまい、食事どころではありません(④)。歯が自然に抜け落ちてしまいます」出血しやすくなる②の段階で歯科医の治療を受ければ、正常な状態に戻るが、それ以上進行すると完全に元に戻すことは難しくなる。だが、重症になる前に治療を受ければ、「歯が抜ける」という最悪の事態を防げる。「歯周病が恐ろしいのは歯が抜けるだけではありません。歯周病と糖尿病には深い関係があるんです。歯周病菌が増えると、血糖値を下げるインスリンの働きを阻害するといわれています。20年間、糖尿病を患っていた人が歯周病の治療をしたら、内科医が驚くほど劇的に糖尿病が改善した例もありました。反対に糖尿病になると、歯周病の治りが悪くなる傾向がありますね」(小川原医師)近年は歯周病の進行で、歯周ポケットから歯周病菌が血液中に入り込み、動脈硬化を進めるのではないかと指摘されている。骨粗しょう症や関節リウマチとの関連も疑われている。歯周病の原因は、歯周病菌に弱い遺伝的体質やホルモンバランス、喫煙、歯ぎしりなどもあるが、大半は歯についた汚れ、つまり口の中の衛生状態悪いことによるものだという。
歯磨き粉の付けすぎには要注意
口の中を清潔に保つには歯磨きが必要だが、ポイントは歯磨き粉に頼りすぎないことだ。「磨くのがうまい人は歯磨き粉を使いません。使わないとスッキリしない人は、まず歯ブラシだけでしっかり磨いて、最後の仕上げにマッチの頭ぐらいの量の歯磨き粉を使用するのがいいでしょう」(斎藤教授)小川原医師もこれに同意する。「歯磨き粉に含まれる香味剤や発泡剤が磨いたような気持ちにさせてしまい、磨き残しの原因になります。歯ブラシでこすらなければ歯垢は落ちないことを忘れずに」(小川原医師)毎食後に口をよくゆすぎ、特に就寝前は5~10分間、しっかりと磨こう。就寝中は唾液の分泌量が低下するため細菌が増えやすいが、就寝前の歯磨きで抑制できる。もちろん毎食後に磨く習慣がある人は継続していいが、1日1回は歯垢をすべて取るつもりで丁寧な歯磨きを心がけたい。歯垢が完全になくなると、再び細菌が増殖するのに24時間以上かかることが分かっている。丁寧な歯磨きをしていると歯ブラシの毛先が開き、1ヵ月に1回以上は交換する必要性が出てくるという。「いつまでも毛先が開かないのは、磨いていない証拠」と斎藤教授は指摘する。そして両氏ともに強く勧めるのが、「歯科での歯のクリーニング」だ。「私は米国に住んでいたことがありますが、欧米ではあいさつ代わりにハグやキスをするなど顔を近づける習慣があったり、治療費が高額なため、予防の意識がとても高い。子供から大人まで『歯のクリーニングに行く』『歯科検診を受ける』というのは当たり前のことなんです。ところが日本では『歯が悪くなったら歯科に行けばいい』という感覚。歯垢が石灰化して歯石になってしまうと、専門家でなければ除去しにくくなります。自宅でのケアと歯科検診で、親からもらった大事な歯を終生メンテンナンスするという意識を持ってほしいですね」(斎藤教授)歯科検診に行くたびに何も問題がないと損をした気分になるかもしれないが、定期的に歯茎や口の状態を診てもらい、歯石を取るという積み重ねが、歯を残すことにつながるという。小川原医師のもとに通う患者の中には、80代で1本も歯を失っていない女性がいる。半年に1回の歯科検診を欠かさないそうだ。いつまでもおいしく何でも食べられることは、元気に生きる源になる。噛む力を落とさず、口の中の健康を保って、健康長寿を実現しよう。