2011年11月号
意外と知られていない歯の役割
歯の働きでいちばん大切なのは、食べものを噛み砕き、消化しやすい形にすることです。そのために、「歯は単なる道具だから、古くなったり痛くなったりすれば、取り替えればいい。年をとれば、歯は自然と悪くなり、抜けていくのは当然だし、入れ歯という便利なものがあるのだから、それを入れればいい」と考えがちです。
たしかに歯は噛むための大切な道具です。しかし、歯の役割はそれだけではありません。 言葉をしゃべるという、人間にとって重要なコミュニケーションにおいて、歯は欠かせない役割を担っています。歯が欠けたり、なかったりすると、発音がはっきりせず、言葉が伝わりにくくなります。【母音の三角形】は口の中で言葉の基本要素である[a][i][u]という音をつくる場所です。母音はすべての言葉の基本となります。この母音を出すところに何かが入ったり、口の中が狭くなったりすると、発音が悪くなります。母音ですから、すべての言葉に影響がでるといってもいいでしょう。入れ歯が、その障害の典型です。 入れ歯の歯の部分を支えているところが薄く、ぴったり張り付いていればまだいいのですが、厚いと母音の三角形に障害が起こります。入れ歯を入れると発音がしにくくなるのは、このような理由があるのです。
また、運動面でも、歯は、体のバランスをとったり、運動するときのも重要な役割を果たしています。 歯を単なる噛むための道具と考え、自分の歯を失う、入れ歯になるということを、あまり切実な問題として考えない人が多いのは、歯が噛むこと意外にどんなに、体にとって重要な働きをしているかを知らないからです。
そもそも、人の器官の中で口ほど敏感なものはありません。たとえば、ものを食べているときに髪の毛が入っていたらすぐに気がつきます。あんなに細いものでも、まぎれこんでいたらすぐに舌でより分けて出すことができます。指先も敏感ですが、口、中でも舌ほどではありません。
一方、噛むことの利点は、食べものを噛み砕き、消化しやすい形にすることだけではありません。脳の血管に血栓ができると、血栓から先に血液が流れなくなり、そこから脳の細胞は死んでいきます。ところが咀嚼を繰り返すことで、脳の血流がよくなり、バイパスができて、脳の細胞に血液を送り込めるようになるのです。 脳卒中を防ぐ意味でも、自分の歯をいつまでも持ち続け、食事のときにはしっかり咀嚼することが大切なのです。