2020年8月号
「長生きしたいなら医者より歯医者」の深い理由
歯のケアをサボると命に関わる
血圧や肝臓などの健康診断の「数値」には一喜一憂する一方、歯のケアに関してはあまり気を使わない人が少なくありません。ですが、口の中から発生する歯周病菌は血管に侵入すると全身を巡り、脳や心臓などに重大な病気を引き起こす可能性を高くします。 歯の劣化や歯周病菌の影響で脳・心臓・血管などがやられ、具体的には「脳・心疾患」「糖尿病」「認知症」などに直結するといいます。そうした警鐘が鳴らされているのを承知の人は多いのですが、本当の怖さと発症の仕組みをきちんと知る人は少ないのです。
例えば糖尿病ですが、歯周病の人には糖尿病の症状を持っている人がとても多いのです。歯周病菌の毒素であるエンドトキシンによって産生される炎症物質が血糖値を下げるインスリンの働きを抑え、糖尿病を悪化させる可能性があります。歯周病の治療をすると炎症物質の血中濃度が下がり、血糖のコントロール状態を示すヘモグロビンA1c(HbA1c)の値が改善することが明らかになっています。歯科医の中では『重症の歯周病患者は糖尿病を疑え』というのが常識です。
呼吸器系では、肺も歯周病との関連があります。最近、歯周病菌が肺の感染部分から検出されて、肺炎の一因であることがわかりました。歯周病を治療することで口の中の細菌が減り、誤嚥性肺炎のリスクも回避できます。
脳血管障害や認知症などにも歯周病が関わっています。例として、2013年、アルツハイマー病の患者の脳から歯周病の原因菌が発見されました。患者10人中、4人の脳からこの菌が見つかりましたが、同じ年齢で認知症ではない10人の脳からは全く検出されませんでした。その後、歯周病菌からできる物質により、アルツハイマー病特有の脳の異常が引き起こされる可能性もわかってきました。2019年1月にはアメリカでアルツハイマー型認知症の人の脳には歯周病菌が生み出した「ジンジパイン」という酵素が存在したという内容の論文が発表されました。
こうした現状を踏まえれば、健康寿命を長いものにするためには、日頃からの歯や口腔のケアが不可欠であることは明らかです。